アプリケーションノート
全般
腐食とは化学的(または電気化学的)作用による金属材料の劣化です。 一般的には環境(主に水の付着)により発生し、異種金属との接触からも発生します。 発生した腐食生成物には導電性がないので、試験対象の材料の薄化を測定できます。
検出には渦流探傷器およびプローブを使用し、規定の手順を適用することで、定量的な測定が可能です。
腐食には、以下に示す種類があります。
• 表面に均等に拡がる全面腐食
• 不均一で、細長く深く進展する(ピットがある)孔食
• 引き伸ばされた粒子の層に沿って進展するはく離腐食
• 粒子の境界に沿って進展する粒間腐食
ほとんどの場合(特に航空宇宙産業では)、検査対象の材料はアルミニウム合金の一種であるため、ここではその用途について紹介します。 通常、鋼鉄の腐食は渦流探傷では検出できませんが、一般的に配管の探傷に適用される反射リモートフィールド探傷で検査するなど、例外もあります。
探傷器の選択
• 探傷器: 腐食検出では、高ゲインかつ低ドリフトで、なるべく反射(送信 - 受信)モードで動作する探傷器を選択することが望ましいです。 一部のプローブ使用時および高ゲイン設定時に発生するバックグラウンドノイズを低減するローパスフィルタ(LPF)機能も有用です。
• プローブ: 最適なプローブは、通常、直径が12 mm(0.5インチ)より小さな反射型スポット/表面検査用です。ただし、広い範囲をカバーするために、それより大きなサイズが使用される場合もあります。 低ノイズ、高ゲインの特殊な反射モデルが、アルミニウムの腐食検出用に特別に設計されています。
• 標準試験片。 校正には、導電率と厚さが探傷領域と類似するステップウエッジタイプの標準試験片を使用します。 厚さが10%、20%、および30%薄くなっている部分のある標準試験片が一般的に適用されます。
インピーダンス平面
装置ディスプレイ上にドットの動きが表示されるので、導電率曲線上の厚さの影響を理解しておくことが重要です。 図1に、誘導性リアクタンス(XL)と抵抗(R)を座標とした代表的なインピーダンス平面を示します。 ドットは、プローブが空中にあると導電率曲線の最上部になり、材料の導電率が増加するにつれて導電率曲線に沿ってB点(検査対象のアルミニウム合金に対応する位置)まで下がってきます。
材料の厚さが薄くなるとともに、ドットは厚さ曲線をB点から上方に移動します。
図1
図2では、リフトオフ信号が水平になるように画面を回転し(位相制御を使用)、長方形の領域のみが装置の画面全体になるまで装置のゲインを増大させています。 厚さ曲線沿いのC点が厚さの20%の減少を表す場合、プローブが腐食部位の上を移動するのに応じて、ドットはB点からC点に移動します。
図2
単層の腐食検出
これは最も簡単な探傷です。 単層の場合、高感度で腐食を検出可能であり、1パーセント程度の低い損失も表示できます。 ただし、高ゲインで探傷する場合、導電率などの変動や、アルミニウム薄板の圧延状態の変化も検出可能ですが、一般にごくゆっくりとした変化で画面に表示されます。 周波数は重要ではありませんが、基準となる浸透深さ1つに対して周波数を設定するのが通例です。
この探傷では、厚さが5%、10%、および20%薄くなっている部分のある標準試験片(同じ材料または似た材料でできたもの)があるとよいでしょう。浅い腐食をより適切に評価できます(図3を参照)。
図3
図4の画面は、厚さ曲線に沿って現れる、膜厚減少に対応する表示を示しています。 腐食の評価は、表示を比較することで行います。 標準試験片での校正後、導電率の違いに対処するために、検査中の試料の上で探傷器のバランス調整をしなければならない場合があります。 ゲインを再調整してはなりません。
図4
2層の腐食検出
2枚のアルミニウム薄板を1つに結合している場合、腐食検出が難しくなります(測定はさらに困難になります)。 2層での腐食測定で最大の問題は、層間にある空隙のばらつきが腐食の存在と混同されかねないことです。 プローブにとって空隙は厚さの減少として捉えられますが、空隙検出時の経路はわずかに異なります。ただし、腐食検出時の経路と見分けるられるほど、大きくはありません。 腐食生成物も空隙を形成するため、状況はいっそう複雑になります。
腐食の検出と測定には、次の3種類の方法があります。
1. 限定浸透法
2. 二重周波数法
3. 多重周波数法
限定浸透法
この方法では、浸透を最初の層のみに制限し、層間に発生する空隙から得られる紛らわしい信号を除去します。 この方法の主な限界は1層目の奥の方では渦電流が少ないことで、その結果、10%以下の腐食に対する感度が低くなります。 幸いにも、それより大きな腐食は、容易に検出できます。
周波数が増加すると、厚さ曲線の表示は時計回りに移動します。 図5は、2層のスキン領域(B点)から1層のスキン領域(C点)にプローブが移動した際の変化を示しています。 最終的に、B点からC点への移動時の表示が水平になり、2点の垂直方向位置の差が無くなる周波数に設定します。
図5
通常は、厚さと探傷周波数の対応表が提供されます。 動作点は標準的な浸透深さの約1.5倍に相当します(これはNortec®渦流周波数計算ツールを使用して算出できます)。
航空会社のNDTマニュアルにある標準の腐食検出手順はこの方法に基づいており、厚さが10%、20%、および30%薄くなっている部分のある校正用標準試験片を使用しています(図6)。 水平ゲインを約6 dB減少させたときの画面表示を図7に示します。
図6
図7
公称厚みまたは導電率の変化、ならびにプローブ間のバラツキがある場合、試験対象の構造に対する応答も確認する必要があります。 前述のとおり、これはプローブを2層領域に置いてから1層領域に置くことで行われます。 ドットの垂直方向の位置が両方の領域で同じになるようにする必要があります。そうすることで、第2層からの妨害を最小限にできます。 ゲインを再調整してはなりません。
二重周波数法
この検査を実行するには、二重周波数装置、および周波数範囲の広いプローブが必要です。 二重周波数法では、2つの異なる周波数を使用して空隙信号をキャンセルします。 第2周波数は、通常は検査周波数の2倍のみでも、両方の層を検査するのに十分な浸透が得られます。
図6に示す通り、通常の標準試験片のほかに、各種空隙(紙を挟み込んだもので十分)も校正用に必要です。
第2周波数F2で検出された空隙信号は、第1周波数で得られた空隙信号の振幅および位相に出来る限り近づくように調整し、2つの信号を互いに減算する(F1-F2)ことによって空隙信号を最小にします(図8参照)。 減算すると腐食信号も弱くなりますが、検出するのに十分な位相と振幅の差があります。 この手法を適用すると、第2層の反対側の腐食も検出できます。 腐食の度合いの測定は、標準試験片との比較によって行います。 腐食の表示は、図9のようになります。
図8
図9
この方法の主な問題点は、校正を慎重に行う必要があり、時間がかかることです。 この方法は、厚い層よりも薄い層のほうが良好に機能します。
多重周波数法
この方法は測定にのみ使用します。
最初に、検査対象の2層に浸透可能な周波数を使用して検出を行います。 これを行うには、2層の厚さを1つに合計して、浸透の標準深さとして使用するのが最適です(前述の単層の厚さ測定手順を参照してください)。 排除すべき信号が検出されない限り、材料構造は探傷可能とみなされます。
腐食が疑われる領域を見つけたら、最も腐食していそうな場所の表面に慎重にマークし、良好だとわかっている箇所をバランス点として使用し、その2つを比較することによって腐食領域の詳細検査を行います。 その他のばらつきを避けるために、関心のある箇所のなるべく近くにある良好な箇所を使用する必要があります(図10を参照)。 各周波数ステップごとに、良好な箇所でプローブのバランスを調整して(かつリフトオフを水平に設定して)から、マークした腐食が疑われる領域にプローブを置きます。
図10
周波数を上げると腐食が疑われる部分に対する表示が時計回りに回転するので(図11を参照)、バランス調整点と同じ垂直位置に達するまで(リフトオフの線に揃って右側に位置します)、周波数を上げます。
図11
注:
周波数を増加させると浸透深さが低下するので、腐食と思われる信号を明確に表示するには、必要に応じてゲインを上げる必要があります。 この方法は位相にのみ依存するため、振幅は重要ではありません。
この方法は、第2層の反対側に生じた厚さ減少を評価するためにも使用できますが、精度は境界面の空隙の均一性に左右されます。
適切な周波数に設定した後は、 以下の手順に従って、材料に残っている良好部分の厚さに関連付ける必要があります。
• 1.5倍の浸透深さでNortec®渦流周波数計算ツールを使用して、対応する厚さを探します。
• 限定浸透法の計算に使用する対応表で、厚さを確認します。