高度なフェーズドアレイ探傷でHTHAを早期に検出
事例・お役立ち資料
要旨
高温水素攻撃(HTHA)は、石油・ガス産業や化学産業のインフラが被る可能性のある最も重大な欠陥の一つであり、環境汚染や爆発、負傷、あるいは人命を失う可能性までもあります。このため、産業界は、是正措置を開始できる早期の段階でHTHAを検出するより良い方法を常に模索しています。
この試験では、Evident製の最新専用フェーズドアレイ(PA)スキャナーとプローブが資産への重大なダメージを防ぐことが可能な早期に、いかにしてHTHA欠陥の検出を可能にするかを明らかにしています。ここでは、HTHA内部損傷による影響が疑われる溶接部サンプルの検査に使用する方法を説明し、分析結果を示します。また、検査設定、データ分析を含む重要なポイントも取り上げ、HTHA検出プロセスの概要をしっかりと説明します。
HTHAのご紹介
高温水素攻撃(HTHA)は、石油化学産業における船舶や水素添加分解装置、熱交換器を含む劣化したインフラに影響をもたらす損傷メカニズムです。これは、液化または気化炭化水素に含まれる水素分子が鉄鋼部品に浸透し、鉄鋼格子内で炭素原子と結合してメタンが形成されると起こります。HTHAプロセスは、材料特性に影響を及ぼす2つの重要な結果をもたらします。はじめに、HTHAは、鉄鋼の炭素量を減少させることで、金属の硬度を低下させます。次に、材料内部の粒界やその他の界面にガスポケットが蓄積することで、鉄鋼の構造健全性に影響を及ぼす可能性があります。これらのプロセスが組み合わさると、インフラに欠陥が生じるリスクが大幅に増大し、壊滅的な結果をもたらす可能性があります。
鉄鋼部品に影響をもたらずHTHAのリスクは、年数、組成、水素への曝露時間、温度、分圧により異なります。構造的な視点から、金属内でのメタンの蓄積は、非破壊的に検出することが不可能な小さな(微小)亀裂の原因になりますが、時間を経るにつれて、こうした亀裂はクラスターを形成したり、一部の非破壊試験(NDT)法で「視認できる」可能性がある連接裂を形成する可能性があります。
こうした小さな欠陥を検出する強力な手法の一つが、超音波フェーズドアレイ検査(PAUT)です。渦流探傷などのその他の手法では近表面検査のみを行うことが可能ですが、PAUTは、材料の片面だけに取り付けた検出器を用いて、厚さ100 mmまでの部品の欠陥指示の詳細なマップを提示ことができます。PAUTは、素子のアレイを用いて、亀裂や空隙、不純物などの界面から偏向した超音波信号を検出し、これにより、適切な装置設定により、高感度および高分解能でHTHA微小亀裂を検出することができます。
HTHA検出における現行規格
HTHA検出プロセスの標準化を目指し、米国石油協会(API)により多くの重要な規制が定められています。例えば、API推奨実施基準941(API Recommended Practice 941)[1]では、TOFD(伝搬時間回折)やPAUT、TFM(トータルフォーカシングメソッド)を含む、HTHAを検出するためのテクノロジーを単一での使用や組み合わせた使用について記載されています。このAPIの規格では、以下の通り、HTHA損傷の段階の分類に関するガイドラインを定めています(図1):
- インキュベーション段階 - NDTによる検出不可
- 光学段階 - 損傷を光学的に検出可能(マイクログラフ)
- 機械的特性の急速な劣化段階
- 亀裂段階
図1.
光学段階のHTHA(左)と連接した裂け目が亀裂を形成(右)
影響を受ける材料への損傷を回避するため、HTHAは可能な限り早期に検出しなければなりません。但し、早期のHTHAは通常裂け目や微小亀裂を特徴としているため、介在物や粒界といった材料の欠陥と区別することが困難な場合があります。進行した段階のHTHAで生じる亀裂は超音波検査で検出することは可能ですが、すでに装置の故障が発生している可能性が高いことから、多くの場合、この段階で問題を効率的に対処するには遅すぎます。
HTHA検出ソリューションの最新開発状況
OmniScan™ X3探傷器用の既存のスキャナーやTOFDプローブに加えて、Evidentはこの度、早期HTHA検出を目的に設計された専用プローブシリーズを発売しました。これらのソリューションには、低ノイズで高ゲインなTFM探傷用の高感度リニア型PAUTプローブ、高周波TRL(送受信縦方向)斜角プローブ(図2)、溶接部内部の検査用ウェッジ、容器の熱影響部(HAZ)または本体の検査に最適なデュアルリニアアレイ™(DLA)プローブなどがあります(図3)。
図2.
溶接部検査用A28斜角T/RプローブとOmniScan X3探傷器
図 3.
HAZおよび本体の垂直探傷用10 MHx DLAプローブ(左)とA31用高感度リニア型プローブ(右)
部品内部のHTHAの検出には、高感度と高浸透力が求められることから、デュアルプローブが正確な検査に適しているというのは当然と言えるでしょう。(2つの単一素子またはアレイから成る)典型的なデュアルプローブには幾何学的フォーカス機能があり、この機能では、2つの音響素子が三角形の底辺を定義し、その先端が幾何学的フォーカスポイントとなります。
2つの素子が音の音響経路を向く角度(いわゆる「ルーフ角」)によって、トランスデューサーの幾何学的フォーカスの深さが決まります(図4)。幾何学的フォーカスを高周波音波(10 MHz)により得られるフォーカスパワーと組み合わせることで、デュアルアレイトランスデューサーは、対象領域に音響強度を集中させる受動的および能動的フォーカスを提供します。
デュアルプローブのもう一つの利点は、潜在的にノイズが発生するウェッジ内の反射を取り除くことです。これは、レシーバーの設計が音響バリアによりトランスミッターから完全に隔離されていることによるものです。これにより、探傷部から到達したエコーのみ登録されるため、ウェッジを短くすることが可能となり、Rexoliteを通過する音響経路を最短化し、鉄鋼を伝搬するためのエネルギーを節約できます。
Evidentの10 MHzデュアルリニアアレイプローブ(10DL32-A28および10DL64-Rex1)には、15 mm、25 mmおよび60 mmの深度での幾何学的フォーカシングを可能にするウェッジが備わっており、最大およそ80 mmまで電子フォーカシングが可能です。鉄鋼部品では深さ95 mmまで、この10 MHz DLAプローブを使用することができます。
図 4.
DLAプローブ(左上)とその幾何学的フォーカシング(左下)および交換可能なSA28ウェッジ(右)のコンセプト
感度校正および溶接部検査の方法
ほとんどの振幅をベースとした測定および検出方法と同様、PAUTでは探傷前に装置の感度校正を行う必要があります。感度校正では通常、誘起割れやHTHAで見られるサイズが近い既知の横穴(SDH)を含むよう製造された金属ブロックを走査します。
この試験では、クラスター内の0.2 mm径のSDHを用いて、初回感度校正を実施しました。データ収集ゲインを18 dBずつ増加し、次に溶接部サンプル検査の前に人為的に亀裂を誘起させたブロックのデータ収集に対して感度を検証しました。基準ブロックおよび使用したプローブを図5に示します。
校正後、HTHA内部損傷による影響が疑われる材料のサンプルを検査用に選択しました。サンプルには、熱交換器の大きい方の溶接部から採取した150 mm×150 mmのブロックを使用しました(図6)。
検査方法はいくつかのステップで構成しました。
- 高周波TOFD(伝搬時間回折)による溶接部体積のスキャニング
- デュアルPA斜角プローブ:
- プローブを溶接中心線から15 mmと30 mmの位置で両側に配置した状態で、溶接部体積を40度~70度のセクタースキャンで走査しました(4スキャン)。
- 溶接中心線から15 mmと30 mmの位置で、HAZを両側-15度~15度のセクタースキャンで走査しました(4スキャン)。
- それから、溶接部を除く疑わしい領域全体を垂直デュアルリニアプローブを用いて走査しました
- その後、TFMを用いて、溶接部体積を確認のために走査しました
- 最後に、WeldSight™ ソフトウェアを用いて、データを統合し、自動解析を実施しました
第一段階では、15 MHz TOFDプローブを取り付けた溶接部サンプルをAxSEAM™スキャナー(図6)で走査し、次にデュアルPA斜角プローブで溶接部を、リニア垂直ビームでHAZを走査しました。円周方向と縦方向を両方スキャンする機能を提供するだけでなく、AxSEAMスキャナーでは、搭載されたデータ収集速度やカップリング効率などのパラメータをScanDeck™ モジュールで継続的にモニタリングすることも可能になりました。
第二段階では、DLAプローブ(図3左および図4左上)を用いて、HAZおよび溶接部に隣接する領域を垂直ビームでスキャンしました。専用のリニアプローブでTFMデータ収集を実施後、WeldSightソフトウェアで統合し、迅速な欠陥検出のために詳細な自動解析を行いました。
図 5.
バリデーション用のSDH基準ブロック(左)と亀裂を誘起したHTHAブロック(中央および右)
図 6.
TOFD、PAUT、およびTFMスキャニングに使用したAxSEAMスキャナーと各スキャンプラン(右上から下まで)
溶接部検査の結果
TOFDスキャニングの結果
TOFDスキャニングの結果から、(検査基準から)65 mmから検査領域端まで、複数の連接欠陥指示が認められました。右スキュー角度で得られた51度のBスキャンにより、欠陥指示の同じアレイが認められました。欠陥指示は溶接中心線の下、およそ14 mmの深さに位置しているように見えます。同じ欠陥指示が確認されたTOFDとPAデータを図7に、スキャンの概要を図の右側に表示します。
図 7.
51度でのTOFDおよびデュアルPAのBスキャンを並べて比較し(左)デュアルフェーズドアレイにより連接裂が確認されました(右)
検査方法のステップ2で得られたデータをまずWeldSightソフトウェアにインポートし、統合しました。結果として、製品の上面図、側面図および端面図として、検出されたいくつかの欠陥指示が表示されています(図8)。体積上面図(図8の右上図)では、スキャンの後半とスキャンの右側で、溶接部体積に特に欠陥が集中していることがわかります。側面図と端面図では、欠陥は主に、底面より上の最後の厚さ5 mm範囲に及んでいます。さらに、側面図では、より多くの欠陥指示が40 mmからスキャン端に向かって認められ、TOFDデータの裏付けとなっています。TOFDで以前に検出された一連の欠陥指示も、スキャン軸上の70 mmから120 mmの間に認められます。
図 8.
10DL64-A28 DLAプローブ—セクター(40~70度)スキャン、スキュー -30度、−15度、15および30度;セクター(-15~15度)スキャン、スキュー -30 mm、−15 mm、15および30 mm。統合されたすべての斜角探触子データ:上面図(左上)、端面図(右)、および側面図(左下)。欠陥は溶接部領域とHAZの右側に集中しています。
デュアルリニアアレイプローブの結果
方法のステップ3で実施した検査では、図3で示した10 MHz DLAプローブと15 mmでのフォーカスポイント(幾何学的フォーカシング)を可能にするルーフ角のウェッジが使用されました。電子フォーカシングを15 mmに設定し、高強度超音波ビームを後壁に垂直に照射し、溶接キャップと体積を除く、疑わしい領域全体を走査しました。溶接部キャップの凹凸により、PAプローブと試料の効率的なカップリングが妨げられます。DLAプローブでスキャニング後に生成されたデータを、WeldSightソフトウェアで統合・解析しました。図9に示す通り、深さ11 mmからサンプルの底面に至るまで、多数の欠陥指示を確認できます。ソフトウェアのクラスター解析ツールにより、スキャン対象領域において100個の欠陥指示が検出されました。
TFMの結果
最後のステップでは、TFM法を用いて微小な欠陥指示の存在を確認しました。この解析では、図3の右に示すリニア高周波プローブを用いて、プローブが溶接されたサンプルの左右両側を覆う状態で、スキャニングを実施しました。この解析後、先に特定された欠陥指示のいくつかがTFMデータにより確認されました。図10の例では、T-T(横方向 - 横方向)伝搬モードを使用しています。T-Tはパルスエコー波形セットで、その経路の両脚が横波です。
図 9.
HAZにおけるDLA PAプローブ(10Dl64-Rex1)を用いた検査。クラスター解析 - およそ100個の欠陥を検出
図 10.
溶接部体積では、サンプルに沿って左スキューでTFMデータを取得
結論
HTHA検査を、0.2 mm径のSDHがある基準ブロックに基づいて実施しました。SDHのデータ収集の増幅を80%に設定し、データ収集ゲインを18 dB増大させて、HTHA検査を実施しました。高ゲイン、小規模波長(10 MHzのL波で0.6 mm)、パッシブアパーチャーの急峻なフォーカス(ルーフ角)を、トランスミッターとレシーバー(T/Rプローブ)の物理的および開口分離を組み合わることにより、ウェッジのノイズや材料のノイズを最小限に抑えた非常に高い検出感度を実現しました。この検査プロセスは、以下に要約する通り、溶接部本体とそのHAZの一連の検査が可能でした。
溶接部体積
溶接部体積は斜角ビーム、TFM、TOFDを用いて走査しました。複数の欠陥指示が検出されましたが、その一部は連接裂のパターンであり、3つの方法全てで確認されました。その他の欠陥指示はランダムな亀裂や介在物のように見えますが、一部の孤立した欠陥指示については、より高い反射率を示しました。
HAZと隣接する領域
斜角ビームのセクタースキャニングと比較して、HAZでは垂直でより多くの欠陥指示が検出されました。これらは、溶接部の左側に高濃度でランダムに広がっていました。
本試験の結果より、EvidentのPAUT技術による3つの手法(TOFD、幾何学的フォーカシング、TFM)を用いて、早期のHTHAに関連する介在物を検出する強力な手法となることが示されました。欠陥指示の本質がHTHA損傷や介在物であると完全に分類することができませんが、トランスミッターとレシーバーが分離したEvidentフェーズドアレイプローブを使用することで、斜角ビームまたは垂直スキャニングのいずれかで、微小な不連続部を検出できることは明白です。
参考資料
- Steels for Hydrogen Service at Elevated Temperaturesvand Pressures in PetroleumvRefineries and PetrochemicalvPlants.API RecommendedvPractice 941, EIGHTH EDITION, FEBRUARY 2016
- https://www.twi-global.com/technical-knowledge/faqs/whatis-high-temperature-hydrogenattack-htha-hot-hydrogenattack
- www.olympus-ims.com
投稿者
フローリン・トゥルク
サブリ・ババ