大口径耐食合金(CRA)クラッド管において円周差のある溶接部の超音波検査のためのデュアルマトリクスアレイ
背景
耐食合金(CRA)は腐食に対して高い耐性があるため、高熱または腐食性の材料を搬送する際に耐食合金(CRA)クラッド管の使用率が高まっています。 しかし、これら合金の保護層は、円周差のある溶接部における、超音波検査の有効性の妨げになる場合があります。 これまで、この課題に対するシンプルかつ信頼性の高いソリューションが求められてきました。
課題
耐食合金(CRA)クラッド管において、円周差のある溶接部の超音波検査を行うにあたっても課題があります。 クラッド層の材料(インコネル、ステンレス鋼等) が母材(炭素鋼)と異なるため、これら材料間の界面の品質によりパイプ内壁(ID)のリバウンドが予測不能となります。 さらに、クラッドと溶接部の異方性構造により、超音波モードの変換の必要性が発生、またビーム方向が変化してしまいます。 その結果、領域識別技法のような高精度な技法が使えなくなってしまいます。 超音波ビームの戻りを利用したパルスエコーも不可能となるため、キャップと表面下の検査が極めて困難になります。
耐食合金(CRA)クラッド管の円周差のある溶接部の断面
対策
オリンパスは、大口径クラッド管の円周差のある溶接部の表面、ルート部また壁内にある欠陥の検知とサイジング能力を高めることをゴールとし、デュアルマトリクスアレイ(DMA)プローブを開発しました。 (デュアルマトリクスアレイの詳細は、以下のアプリケーションノートをご参照下さい:音の通りにくい材質の溶接部検査に適したデュアルマトリクスアレイ。)
このアプリケーションノートで取り上げている検査には36インチのパイプがサンプルとして使われ、55°LWウェッジに28の素子(7 x 4)の2つのマトリクスが搭載された構成をもつ2.25MHz DMAプローブが用いられました。
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左:DMAプローブの写真。右:元素分布の概略図
パイプの内壁から外れることなく溶接部を確実にカバーすることを目標に、ポータブルフェーズドアレイ探傷器OmniScan MX2 32:128 PRをプログラミングしました。 これには二つの異なるグループが使われました:
- グループ1は30°から76° LWのセクター走査を行い、溶接の上部と表面をカバーすべく焦点深度を2mmにしました。
- グループ2は30°から76° LWのセクター走査を行い、溶接のルート部と体積をカバーすべく焦点深度は20mmでした。
以下の写真は、2つのマトリクス間の界面で生成されたビームのモデリングです。
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ビームモデリング:(左側)75° LWビーム、焦点深度2mm[グループ1]、 (右側)45° LWビーム、焦点深度20mm[グループ2]
検査は、スキャナーやエンコーダー装置を使わずに手動で行われました。
機器
検査には以下の機器が使用されました:
モック検査用に使用したサンプルは、炭素鋼の36インチ径のパイプにクラッド材のインコネル625を3mmの厚みで機械的に結合したものです。 溶接部にもインコネル625が材料として用いられました。
クラッド管の構成概略図
モック検査用の参照欠陥を以下に示しました。 以下の方法が一般的です:T/4、T/2及び 3T/4で溶接中央部にあけた2.5mmの水平ドリル穴、そして溶接部の止端、上部及びルート部に設けた長さ10mm深さ2mmの表面切り込みキズ。
モック検査用クラッド管の参照欠陥の概略図
結果
全てのSDHが、45dBより優れたSN比で検知されました。 3T/4及びT/2のSDHはグループ2の焦点深度20mmで検知され、T/4のSDHはグループ1の焦点深度2mmで検知されました。
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SDHの検知:3T/4(左)、 T/2(中央)、 T/4(右)
プローブと同じ側に存在する止端切り込みキズと溶接上部に存在する切り込みキズは、40dBより優れたSN比でグループ1の焦点深度2mmで検知されました(以下に示す通り)。 ルート部に存在する切り込みキズはグループ2の焦点深度20mmで簡単に検知されましたが、写真撮影は行いませんでした。
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切り込みキズの検知:止端(左)、 溶接部中央の上部(右)
注目すべき点
当アプリケーションノートに反映されている結果は、大径クラッド管に2.25MHzのDMAプローブを用いて取得されました。 当アプリケーションノートに反映された結果は、径の小さなパイプには適用できません。 小径パイプの場合は、アプリケーションノート「デュアルリニアアレイ(DLA)プローブを使用した小径オーステナイト鋼管の検査」を参照してください。
また、この検査はスキャナーやエンコーダーを用いずに手動で行われました。 この技法は順応性があるものの、検査担当者に依存する部分もあります。 ゆえに、ここに反映されている結果をそのまま高生産速度の環境に適用できません。 オリンパスはまた、似たツールを用いてそのような環境における対策を開発中です。
結論
2.25MHzのDMAプローブとOmniScan MX2 32:128 PRとを組み合わせての使用は、大口径クラッド管の検査に有益といえます。 これにより、円周差のある溶接部全体を確実にカバーできました。 ビームを30°から76°LWでステアリングして焦点深度2mm及び25mmの2つのシナリオで検査した場合、溶接部のSDHそしてIDとODに存在する切り込みキズを検知できました。
これらは有望な結果であり、オリンパスはこのツールをより径の小さなクラッド管と高生産速度の環境において利用可能な検査手法をさらに開発すべく努めています。
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