アプリケーションノート
ポータブルXRFを使用した水や食品に含まれる鉱物と汚染物質の識別
蛇口から出てくる水はH2Oのみでしょうか? 答えは単純ではありません。水に肉眼では見えない溶解物質が含まれている可能性があるからです。 オリンパスのVanta™ XRF分析計などのポータブル蛍光X線分析(pXRF)装置は、飲料水の中に隠れている鉱物や汚染物質の識別に役立ちます。
水に含まれる鉱物と汚染物質の識別
飲料水はH2Oのみを含むように見えても、他の物質がグラスに溶け込んでいることはよくあります。 こうした物質のうち、虫歯の予防を助けるフッ化物などは有益なものです。 その他の一般的な鉱物としては塩化カルシウム(CaCl2)があります。電解質を含有する化合物で、水に含まれると脱水予防になります。 他の一般的な塩化物(マグネシウム、ナトリウム、塩化カリウムなど)と同様に、塩化カルシウムは地質的過程を経て岩石から飲料水に溶け込む可能性があります。 下のグラフ(図1)は、溶解したカルシウムを1000 ppmから20 ppmまで測定することで、Vanta pXRF分析計の精度を示したものです。
図1: ICP標準試料における溶解カルシウムに対するVanta pXRFの分析性能(差し込み図は低濃度を示します)
しかし、水には硝酸塩(NO3-)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、重炭酸塩(HCO3-)など、有害物質になりえるものが含まれている場合があります。 こうした成分や化合物は、パイプや給湯器の損傷、スケール形成、細菌増殖など、健康やインフラにさまざまな問題を引き起こす恐れがあります。
Vanta™ シリーズを使用して行うポータブル蛍光X線(pXRF)分析などの成分分析法を使用すると、有害物質の一部を識別、測定できます。pXRFは、飲料水中の汚染物質のうち最も大きく有害なグループのひとつである、重金属の識別にも役立ちます。
飲料水に含まれる重金属汚染物質
一般にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、鉛(Pb)を含む重金属は、飲料水内に存在するとさまざまな問題の原因になります。 これらの金属は、岩石の自然風化、石炭を燃料とする火力発電所、鉱山など、人間と地質の活動から水に入り込む可能性があります。 これらの金属が地下水に入り込むと、水は酸性化またはアルカリ性化します。 その結果、水は飲料用には有毒で、パイプやその他の水インフラを損傷させる恐れがあります。 金属によって水のpHが変化して、各種の有毒な細菌がますます増殖する可能性もあります。
各種の飲料水
幸いなことに、ほとんどの飲料水は何らかのろ過処理や精製処理がなされています。 すぐ手に入る飲料水にはさまざまな種類があります。
- 水道水
- 蒸留水
- ろ過水
- 湧き水
- 精製水
通常、最も簡単に手に入る水道水は、いくつかの処理を経ています。 地下水に化学薬品を加えて、泥など溶解粒子のほとんどを取り除きます。 透明になった水をろ過して塩素で消毒します。地域によっては、フッ素消毒が行われます。 蒸留水を沸騰させて水蒸気を生成し、液化することでほとんどすべての汚染物質が取り除かれた飲料水になります。 ろ過水は水道水と似ていますが、最終的な精製段階でボトルに詰める前に、オゾンでろ過処理して殺菌する場合があります。 ろ過水と同様に、湧き水はオゾン処理に加えて、水道水で行われる精製段階を経ます。 最後に精製水は、逆浸透、蒸留、脱イオン化など、たくさんの精製方法があります。 各種の手法で、特定の溶解物質や汚染物質が取り除かれたり、残されたりします。 Vanta pXRF分析計を使用すると、各種の水からどの溶解物質が取り除かれていないかを識別できます。
Vanta pXRF分析計を使用した水の分析
pXRFの機能をご覧いただくために、前述の5種類の水と雨水をVanta分析計で検査し、結果を定量分析しました。 検査にかかった時間は1分で、水に含まれる汚染物質と鉱物がすぐにわかりました(図2)。
図2: Vanta pXRFによる5種類の水の分析はさまざまな溶解物質を示しています
目視検査ではすべての水が同じように見えますが、異なる溶解物質が含まれています。 蒸留水や精製水など、多くの精製段階を経た水には、検出可能レベルの溶解鉱物、塩分、金属は含まれていません。 湧き水やろ過水など、水源に近い水には、有機物の成分(リンや硫黄など)や、地質的過程による塩分(カルシウムや塩素など)が含まれています。 水道水には、これらの有機物や塩分に加えて、水を運ぶパイプ類を由来とする微量(かつ安全な量)の鉄と亜鉛が含まれています。 鉄は体に必要なミネラルとして取り込まれますが、家の水栓に赤っぽい汚れを残す場合もあります。 幸い、検査したどの水にも検出可能な量の重金属は含まれていませんでした。
Vanta™ pXRF分析計が計算できるのは元素濃度だけではありません。各種の塩分濃度も計算できます。 湧き水と水道水を例にとると、Vanta分析計は塩化カルシウムの濃度をインラインでリアルタイムに判定できます(図3)。
図3: 湧き水(左)および水道水(右)に含まれる塩化カルシウム(CaCl2)に対するVanta pXRF分析計のインライン計算
廃水中の重金属汚染物質の識別
Vanta™ pXRF分析計は、工業や農業に使用された廃水または水に含まれる重金属汚染物質も識別できます。 一部の重金属はVanta分析計で1 ppm(1 mg/L)以上として直接検出できますが、それを下回るレベルの汚染物質も存在します。 Time-lapse Ion Exchange Resin Sachets(TIERS)1などの試料調製の進歩によって、Vanta分析計で10億分率(ppb)レベル、つまり1 mg/Lの微量までの重金属および塩分濃度を検出できるようになりました。 簡単な低費用の試料調製法で、水に含まれる成分濃度が100~1,000倍に増幅されるため、費用のかかる調製法に匹敵する検出限界が実現します。
TIERSなどイオン交換樹脂の使用は、工業や農業における違法な排水の検出1、農地の重金属汚染の評価2、大量の水における汚染物質の識別3といった事例で役立つことが明らかになっています。 こうした手法が廃水フィンガープリント法の開発につながり、研究者は特定の汚染物質の発生源を特定できるようになりました。 ppb検出限界が実現したことで、pXRFは廃水分析と汚染物質特定に有用なツールといえます。
食品と飲料に含まれる汚染物質
重金属汚染の可能性がある食品・飲料は水だけではありません。 穀物や砂糖など、その他の一般的な摂取品目も、重金属で汚染されている可能性があります。 食品に含まれるすべての金属片に加えて、人間の活動や環境から派生する微量の金属が食品を汚染することもあります。 機械類の故障、肥料に含まれる汚染物質、製粉や加工の各種手法によって、鉄や亜鉛などの金属が食品に誤って混入する場合があります。 砂糖には、加工時に使用される水が汚染して汚染物質が混入する場合や、サトウキビが育つ土壌に汚染物質が存在する場合があります 水と同様に、市販の小麦粉、米、砂糖についてVanta™ pXRF分析計で検査し、結果を定量分析しました。 検査にかかった時間は1分で、食品棚の必需品に含まれる汚染物質はすぐにわかりました(図4)。
図4: Vanta pXRF分析計による一般食品のスキャン(左:砂糖、中央:小麦粉、右:米)
どの溶解物質も肉眼では見えませんが、食品の中に明らかに存在しています。 検出されたすべての元素は、これらの材料に自然に発生したものであり、天然由来の鉱物、塩分、栄養素です。 Vanta分析計は、プロテインパウダーや薬用植物など、多種多様な製品の検査に使用できます。
これらの元素分析は食品や飲料に含まれる汚染物質を明らかにするとともに、VantaハンドヘルドXRF分析計の分析性能を証明しています。
参考文献
Josh Litofsky
Application Scientist, XRF Technologies
Josh Litofsky holds a bachelor’s degree in physics from Beloit College and PhD in chemical engineering from Pennsylvania State University. For his PhD, he focused his research on advanced characterization of designer materials using X-ray diffraction. From 2019 to 2022, Josh brought his expertise to Evident as an application scientist, supporting our X-ray fluorescence (XRF) analyzers to provide enhanced solutions to customers. In his free time, Josh enjoys running and has run the fastest 100k in the state of Pennsylvania.
関連製品
https://main--eds-evident-website--evident-scientific.hlx.live/ja/vanta/
Vanta
VANTAシリーズは携帯性に優れたハンドヘルドタイプながら、素早く高精度な成分分析が可能で、質の高い分析結果を得ることができます。 IP55またはIP54相当の防塵・防水性能を備え、落下試験にも合格しているため、厳しい環境での分析業務にも対応することができます。