信頼せよ、されど確認せよ:地球化学および合金分析ウェビナーの振り返り
myStandards GmbH の創設者兼 CEO である Simon Nordstad 氏が主催した本ウェビナーでは、分析手法や試料調製の考え方、標準物質の重要性に加え、地球化学および合金分析における品質保証 / 品質管理(QA/QC)の基本概念について、包括的な解説が行われました。以下では、本セッションで共有された主なポイントを振り返ります。
分析技術への理解を深める
4 つの主要な分析法の比較:
- 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)
- 発光分光法(ICP-OES)
- レーザー誘起破壊分光法(LIBS)
- 蛍光 X 線分析(XRF)
いずれの分析技術も一律に優れているわけではなく、対象元素や必要とされる感度に応じて、適した用途が異なります。
試料前処理:なぜ重要なのか
試料前処理は、正確で信頼性の高い分析結果を得るうえで重要な役割を果たします。特に 蛍光 X 線(XRF)分析では、その影響が顕著です。本ウェビナーでは、以下のような一般的な前処理方法が紹介されました。
- 試料カップや袋に入れた粉体試料
- バインダーの有無を問わない圧縮成形ペレット
- 主にラボ分析で用いられる溶融ビード
- 合金分析に用いる平らな金属表面
ハンドヘルド蛍光 X 線分析計で簡易な前処理でも測定可能ですが、圧縮成形プレスペレットなどを用いることで分析結果の質が大幅に向上します。
ハンドヘルド蛍光 X 線分析計を用いた現場での土壌分析
標準物質と校正
Simon 氏 は標準物質(Reference Materials)と認証標準物質(Certified Reference Materials)の違いについても説明されました。ISO 規格に基づき、認証標準物質は厳格な検証プロセスを経ており、測定値、不確かさ、トレーサビリティを示す証明書が付属します。
分析結果の信頼性を確保するためには、ISO 17034 の認定を受けている、もしくはその基準に準拠した標準物質を使用することが推奨されます。
品質保証および品質管理:正確性と精度
品質保証には基礎となる 2 つ軸があります。
- 正確性:結果が真の値にどれだけ近いか。
- 精度:繰り返し測定がどれだけ一貫しているか。
蛍光 X 線の校正の仕組み XRFスペクトルからの1秒あたりのカウントデータを参照材料の既知の濃度に対してプロットすることにより、アナリストは信頼性の高い回帰モデルを構築できます。
マトリクス効果:校正が材料に適合しなければならない理由:
すべての試料が、分析時に同じ挙動を示すわけではありません。「マトリクス効果」とは、元素濃度が同じであっても、試料全体の組成(マトリクス)の違いによって分析結果が影響を受ける現象を指します。
解決策は? マトリックスマッチング校正です。校正は、測定対象と同じ種類の試料を用いて行う必要があります。
同一試料であっても前処理は重要
試料前処理は、蛍光 X 線分析結果に直接影響します。重要なのは一貫性:精度を維持するためには、測定試料と校正標準を同じ方法で前処理する必要があります。
品質保証と品質管理の違い:簡単な解説
品質保証と品質管理には明確な違いがあります。
- 品質保証(QA):欠陥の発生を未然に防ぐための、プロセス重視の考え方。品質目標を設定します。
- 品質管理(QC):結果を検証し、不具合を検出・修正するための手法。測定結果を検証します。
蛍光 X 線分析では、測定結果を継続的にモニタリングすることで、装置が一貫して正確な結果を出しているかを確認します。
現場で実証されている品質保証・品質管理手法
長期的な精度を確保するためには、装置性能のモニタリングが重要です。代表的な方法として、以下が紹介されました。
- サンプルブラケット法:測定試料群の間に既知の標準物質を挟む。
- クロス検証:蛍光 X 線分析の結果を ICP-MS などの他の手法と比較する。
- 再現性試験:例えば、同じ圧縮成形ペレットを 100 回測定した結果、相対偏差が 1 % 未満である場合には、精度が極めて高いことを示す。
管理限界の定義
当社のハンドヘルド蛍光 X 線分析計 Vanta シリーズは分析結果のリアルタイムでの検証をサポートします。例えば、多様な合金判別の仕様が本体に組み込まれており、元素濃度の範囲を規格値と自動で比較します。また、同一試料を繰り返し測定することで、装置固有の精度を把握し、独自の管理限界を設定することもできます。
常に検証することで、信頼性の高い機器に
ハンドヘルド蛍光 X 線分析計の精度は、校正と使用方法に大きく左右されます。これは「当てて測るだけ」の装置ではありません。測定試料に適した校正を選択し、適切な品質保証・品質管理を実施することが不可欠です。そうでなければ、一見すると精度が高そうな結果であっても、結果として大きな判断ミスにつながる可能性があります。
「装置は同じ数値を繰り返し出すことはできる。しかし、その数値が正しいかどうかは使用者次第だ。」
さらに詳しく知りたい方へ 本ウェビナーの全編はアーカイブで視聴可能です。マトリクスの違いに関わらず、蛍光 X 線分析結果に自信を持つためのツールや手法について、詳しく解説されています。
鉱業、冶金、材料科学など、どの分野においても、本ウェビナーは、適切な分析手法の選択、試料前処理の重要性、そして信頼できる標準物質による検証の重要性を改めて示す内容となっています。
ライブ配信を見逃した方は、固体試料の地球化学分析および合金分析において、分析結果の信頼性を支える手法やベストプラクティスについて、より深く理解できる内容となっていますので、ぜひご視聴ください。
Simon Nordstad
CEO兼創設者、MyStandards
Simon Nordstad は、ドイツ・キール大学で地質科学の理学修士号(M.Sc.)を取得しています。大学院在学中には地球化学研究室に所属し、ICP-MS、ICP-OES、LA-ICP-MS 分析のための酸分解処理および試料調製技術に関する実践的な経験を積みました。また、ナノペレットとして知られる微小分析用標準物質の製造プロセスの開発にも貢献しました。
卒業後、彼とそのチームは連邦政府の EXIST 創業助成金を受賞し、2018 年に myStandards GmbH 社を設立。myStandards 社は元素・同位体分析用の認証微小分析用標準物質の製造を専門としています。2022年、myStandards GmbH 社はレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)用のマイクロメートル規模の圧縮粉末成形体を製品ラインナップ、続いて 2023 年にはハンドヘルド蛍光 X 線分析計と互換性のある材料の開発を進めました。