PAUT、PWI、PCI および TFMの技術を比較
多用途かつ多様な技術を搭載したソリューションとして、OmniScan X4™超音波フェーズドアレイ探傷器のすべてのモデルには、当社が提供するすべての超音波検査(UT)技術を備えています。
- 従来 UT
- フェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)
- 伝搬時間回折(TOFD)
- トータルフォーカシングメソッド(TFM)
- 位相コヒーレンスイメージング(PCI)
- 平面波イメージング(PWI)
- ツインTFM/PCI
これらの高度なイメージング機能と操作が簡単なインターフェースを組み合わせることで、あらゆるスキルレベルのOmniScan X4ユーザーが、溶接部と構成部品の探傷を迅速かつ確実に実施できます。
老朽化したインフラは、高温水素浸食(HTHA)、水素硫化物(H2S)、およびクリープ損傷などの複雑な損傷メカニズムの影響を受ける可能性があります。これらの欠陥は、音波ビームでの検出特有の制限や、損傷の形状、サイズ、角度が原因で、従来UTやPAのみによる検出が特に困難です。これらの欠陥を正確に区別する上で、様々な技術やツールを適切に活用できることは強みになります。
すべてのOmniScan X4モデル(16:64PRを含む)には、UT、PAUT、TOFDに加え、TFM、PCI、PWIおよびツインTFM/PCI機能が搭載されています。
しかし、どの欠陥のタイプに対してどの技術が最適なのでしょうか? FMC、TFM、PCIおよびPWIはNDTの分野では比較的新しい技術であり、フェーズドアレイに熟練した作業員でも、これらの新しい超音波技術には不慣れである場合があります。これらについて説明するよりも、実際に見ていただこうと思いました。TFM、PCIおよびPWIについて理解を試み助けるため、ルート溶け込み不良(LORP)やHTHA損傷など、典型的な溶接欠陥を含む標準試験片において、いくつかの画像解析実験を実施しました。
TFM、PCI、PWIの違いは何ですか?
イメージングの比較について見る前に、各イメージング技術の一般的な機能を簡単にご説明します。
- FMC: 単一のフェーズドアレイ(PA)プローブから包括的な波形データセットを得られるよう設計されたパルス受信シーケンス。このシーケンスでは、一度に1つの素子をパルス発信し、全ての素子で受信します。このプロセスは、アレイの各素子がそれぞれパルス送信されるまで繰り返されます。
- PWI: FMCと比較して、波形データの量を削減したパルス受信シーケンス。この方法では、多素子開口幅がパルス送信され、信号がすべての素子で受信されます。このプロセスは、すべてのユーザーが定義したビームが収集されるまで繰り返されます。
- TFM: 各送信機とレシーバから収集したデータは、FMCを使用するかPWIを使用するかに関わらず、遅延および積算アルゴリズムを用いて処理され、「焦点の合った」画像を生成します。送信と受信のいずれにも合成ビーム形成が採用されており、収集したすべての基本送受信データ(A-スキャン)を合成します。
TFMの基本原則のビデオは、Inspectioneeringのウェブサイトでご覧いただけます。
- PCI: 位相コヒーレンスイメージング(PCI)はTFMの振幅のないバリエーションで、FMCデータを使用しますが、位相情報のみを保存し、振幅は破棄されます。次に、画像が生成されますが、これは信号振幅の合計ではなく、A-スキャン間の位相コヒーレンスのレベルに基づいて行われます。位相コヒーレンスは、A-スキャンの周波数分布を分析することで評価されます。
溶接部検査の比較:PAUT対FMC対PWI
1回目の比較では、3つの異なる技術の組み合わせにより画像を生成しました。以下に使用したパラメータを示します。
- PAUT: コンパウンドスキャンを40°~70°の範囲で0.5°ステップで実施
- TFMおよびPCIを用いたFMC: 二重厚さ領域を備えたT-Tモード(フルマトリックスおよびスパース構成)
- TFMおよびPCIを用いたPWI: 二重厚さ領域を備えたT-Tモード(40°~70°の範囲で角度ステップは変動)
1回目の試験は、25.4 mm厚の単一のV溶接部で実施します。試験は、N55Sウェッジを搭載した5L64 A32プローブを用いて実施しました。
振幅データ
PAUT、FMC、およびPWIの振幅データを比較するため、以下の最適なスキャンパラメーターを使用しました:「フルスパース」FMCとPWIの角度ステップ1°。この比較については、ルート溶け込み不良(LORP)チップ信号を80%に正規化しました。
PAUTのスキャン速度:132 mm/s
FMC/TFMの最大スキャン速度:18 mm/s
PWI/TFMの最大スキャン速度:38 mm/s
ここでは、信号が異なる技術間で比較可能であることが分かります。PWIでは、検査範囲外(赤色で丸く囲った部分)に不要なエコーが示されています。PWIは、FMCのおよそ2倍のスキャン速度で処理することが可能です。一方、PAUTの結果は同等の精度であり、検査速度は大幅に向上します。
位相データ
デフォルトのPCIカラーパレットを用いると、PWI/PCIは、FMC/PCIに比べて明らかに弱い信号を返します。ところが、カラーパレットを調整(拡大)すると、PWI/PCIではノイズの強い信号が示され、また、欠陥指示のすべての要素が依然として検出されていることが示されます。
FMC/PCIの最大スキャン速度:17 mm/s
PWI/PCIの最大スキャン速度:35 mm/s
PWI/PCIの最大スキャン速度:35 mm/s(カラーパレット調整済み)
ここでは、PWIがより高速なスキャン速度での処理を可能にしながら、信号品質のトレードオフとして、速度が上がるにつれて品質が低下していることがわかります。
振幅: スパース
次の画像セットには、「スパース 1/2」の撮影設定を使用しました。これにより、欠陥のノイズレベルが影響を受けました。LORPでは、信号対雑音比(SNR)は30.8 dBから29.4 dBに低下しました。止端割れでは、SNRは25.6 dBから23.1 dBに低下しました。
FMC/TFMの フルマトリクス 最大スキャン速度: 18 mm/s(aおよびb)、FMC/TFM スパース1/2 の最大スキャン速度: 36 mm/s(cおよびd)
ここでは、スパースが1/2のスキャン速度が、角度ステップが1°で、不要な信号の欠点がないPWIと同等であることがわかります。
振幅: PWIの角度を制限
比較すると、PWIの角度ステップを増加させるにつれ、信号品質が急激に低下することがわかります。
PWI/TFMの角度ステップ1°の最大スキャン速度: 38 mm/s(aおよびb)、PWI/TFMの角度ステップ2°のスキャン速度: 73 mm/s(cおよびd)、PWI/TFMの角度ステップ3°のスキャン速度: 106 mm/s(eおよびf)、PWI/TFMの角度ステップ5°のスキャン速度: 167 mm/s(gおよびh)
HTHA検査比較: PAUT対FMC対PWI
2番目の技術比較では、3つの異なる技術の組み合わせとパラメーターを使用して作成した検査画像を見てみましょう。
- PAUT: 40素子開口幅による0°のリニアスキャン
- FMCを用いたTFMおよびPCI: L-Lモード(フルマトリクスおよびスパース構成)
- PWIを用いたTFMおよびPCI: L-Lモード(−20°~+20°の範囲内で、角度ステップは変動)
2回目の試験では、47 mm厚の人工的なHTHAがあるブロックで実施します。 試験は、直接接触型モードで10L64 A32プローブを用いて実施しました。
振幅データ
PAUT、FMC、およびPWIの振幅データを比較するため、これらのスキャンパラメーターを使用しました: 「フルスパース」FMCとPWIの角度ステップ1°。
この比較では、スキャン距離が127 mmの孤立した信号を80%に正規化しました。
PAUTのスキャン速度:661mm/s
FMC/TFMの最大スキャン速度:31mm/s
PWI/TFMの最大スキャン速度:49mm/s
ご覧の通り、PAUTではずっと高速なスキャン速度での処理が可能ですが、その信号はFMCやPWIで得られる情報にはまったく及ばないことがわかります。HTHAでは、これらの技術の力が発揮されます。PWIはFMCよりも多くの情報を返し、底面部の隅に信号を生成せず、後壁の信号が弱くなることがありません。
位相データ
デフォルトのPCIカラーパレットを用いると、PWI/PCIは、FMC/PCIに比べて弱い信号を返します。カラーパレットが調整(拡大)されると、PWI/PCIでは、HTHA損傷の詳細が明らかになります。
FMC/PCIの最大スキャン速度:29 mm/s
PWI/PCIの最大スキャン速度:45 mm/s
PWI/PCIの最大スキャン速度:45 mm/s(カラーパレット調整済み)
ここでも、PWIがより高速なスキャン速度で処理が可能であることがわかります。
位相: スパース
PCIの統計学的性質により、スパース撮影は通常推奨されません。ただし、この構成では信号に影響を及ぼすことはありません。スパース1/2の撮影によるスキャン速度は、角度ステップ1°のPWIよりも優れています。
PWI/PCIの最大スキャン速度:45 mm/s(カラーパレット調整済み)
FMC/TFMのスパース1/2の最大スキャン速度: 57 mm/s
位相: PWIの角度を制限
TFMで見られるのと同じ信号品質の低下が、PCIで起こります。
PWI/PCIの角度ステップ1°の最大スキャン速度: 45 mm/s
PWI/PCIの角度ステップ2°の最大スキャン速度: 87 mm/s
PWI/PCIの角度ステップ5°の最大スキャン速度: 204 mm/s
PWI/PCIの角度ステップ10°の最大スキャン速度: 367 mm/s
結論
これらのイメージング技術比較 -溶接検査:PAUT対FMC対PWIおよびHTHA検査:PAUT対FMC対PWI - は以下の結論を導き出しました。
25.4 mmのV溶接部検査
PAUTは、FMC-TFMおよびPWI-TFMと同等の結果を提示しながら、検査速度が大幅に高速化するという、優れた結果を示しました。
直接接触型における10L64-A32プローブを用いたHTHA検査
PWIの性能は、使用する技術がTFMかPCIかに関わらず、PAUTやFMCよりも上回っています。PAUTと比較してスキャン速度が落ちるものの、PWIは検出の確実性が向上します。
注記: 良好な信号対雑音比(SNR)を維持するには、角度ステップが小さく、PWIビーム数が多くなければなりません。
オート、セミオート、手動のいずれにおいても、OmniScan X4探傷器は上記の超音波技術をサポートしています。同一の検査で複数の技術を組み合わせて使用することで検査の確実性を高め、欠陥指示信号の特定やサイジングを容易に行なうことも可能です。
詳細をお知りになりたい場合は、Evidentの担当者にご連絡いただくか、こちらからお問い合わせください。