アプリケーションノート
高温下における超音波検査
ほとんどの超音波探傷と厚さ測定は、通常の環境温度で実施されますが、高温材料の検査が必要となる場合も多くあります。
このような検査は、金属パイプやタンクを冷却のために休止することなく検査する必要がある加工業界で最も多く行われます。また、製造直後の押出成形プラスチックパイプや熱成形プラスチックなどの高温材料を扱う製造状況や、完全冷却前の金属インゴットや鋳造品の検査も含まれます。
従来型の超音波探触子は、約50°C(122°F)までの温度に耐えられます。それより高い温度では、熱膨張による内部剥離が原因で、最終的に探触子の破損に至ります。対象となる試験材料が約50°C(122°F)よりも高温である場合は、高温用探触子および特殊な検査手法を採用する必要があります。
このアプリケーションノートには、高温用探触子とカプラントの選択、およびそれらの使用に関する重要な要素の簡便な参照情報が含まれています。約500°C(932°F)までの温度での材料に対する従来型超音波試験を取り上げます。それより高い温度が関わる研究用途においては、極めて特殊な導波管技術が使用されます。それらはこのアプリケーションノートの対象外です。
高温用探触子
NDTの高温用探触子は、二振動子型探触子と遅延材付き探触子の2つのカテゴリーに分けられます。いずれの場合も、遅延材(二振動子型の場合は内蔵)が、作動中の探触子振動子と高温検査表面の間の熱絶縁物として作用します。設計上の理由から、標準の製品ラインには高温用の直接接触型または水浸型の探触子は存在しません。
高温用の二振動子型および遅延材付き探触子は、厚さ測定および探傷用途の両方で使用可能です。他の超音波検査と同様、所定の用途に合った最適な探触子は、材料、厚さの範囲、温度を含む具体的な検査要件によって決まります。探傷の場合は、関連する欠陥の種類とサイズも要件に加わります。
1. 高温厚さ測定用探触子
高温厚さ測定の最も一般的な用途は腐食調査作業です。39DL PLUSや45MGなどの腐食用厚さ計で、高温のパイプやタンクの残存金属の厚さを測定します。Evidentの腐食用厚さ計に使用するために設計された探触子のほとんどは、高温での使用に対応しています。一般的に使用されるD790シリーズの探触子は、500°C(932°F)までの表面に使用できます。温度仕様を含む腐食検査用の二振動子型探触子の完全なリストについては、Corrosion Gauge Dualsを参照してください。
39DL PLUSまたは45MG(一振動子ソフトウェアオプション付き)厚さ計を使用して、高温のプラスチックなどの精密な厚さを測定する場合は、M200シリーズ(厚さ計のデフォルト探触子M202、M206、M207、M208)のすべての標準Microscan遅延材付き探触子に高温遅延材を装着できます。遅延材DLHT-1、-2、および-3は、260°C(500°F)までの表面に使用できます。遅延材DLHT-101、-201、および-301は、175°C(347°F)までの表面に使用できます。これらの遅延材のリストはDelay Line Option Chartに示されています。
浸透性を高めるために低周波数探触子を使用するような測定困難な用途では、Videoscan遅延材交換可能探触子と適切な高温用遅延材も、ハイペネトレーションソフトウェアオプションが組み込まれた39DL PLUSおよび45MG厚さ計とともに使用できます。この場合、探触子のカスタムセットアップが必要になります。このシリーズの探触子用標準遅延材は、480°C(896°F)までの表面に直接接触して使用できます。探触子と遅延材の全リストについては、Replaceable Face Transducersを参照してください。
2. 高温探傷用探触子
高温厚さ測定用と同様に、高温探傷でも二振動子型または遅延材付きの探触子が最も一般的に使用されます。当社の標準NDT探傷用二振動子型探触子はすべて、高温で使用できます。周波数が5 MHz以下であるフィンガーチップ、フラッシュケース、およびエクステンドレンジ二振動子型探触子は約425°C(797°F)まで使用でき、高周波数二振動子型探触子(7.5 MHzと10 MHz)は約175°C(347°F)まで使用できます。このカテゴリーの探触子の全リストについては、Flaw Detection Dualsをご覧ください。
Videoscan遅延材交換可能探触子は、適切な高温用遅延材とともに探傷用途に使用できます。このシリーズの遅延材付き探触子は、480°C(896°F)までの高温の表面に直接接触して使用できます。各種最高温度に適した探触子と遅延材の全リストについては、Replaceable Face Transducersを参照してください。
薄い材料が対象となる用途では、V200シリーズ(最も一般的なのはV202、V206、V207、およびV208)の遅延材付き探触子が最適であることが多く、高温用遅延材を装着できます。遅延材DLHT-1、-2、および-3は、260°C(500°F)までの表面に使用できます。遅延材DLHT-101、-201、および-301は、175°C(347°F)までの表面に使用できます。これらの探触子および遅延材のリストは、Delay Line Transducer Listに示されています。
斜角探触子とともに使用する特殊な高温用ウエッジも用意されており、ABWHTシリーズは260°C(500°F)まで、ABWVHTシリーズは480°C(896°F)まで使用できます。購入可能なサイズについての詳細は、お近くのEvident販売代理店までご相談ください。
高温下超音波検査用かプラント
プロピレングリコール、グリセリン、および超音波用ジェルなどの一般的な超音波カプラントは、約100°C(212°F)よりも高温の表面で使用した場合は短時間で蒸発します。そのため高温における超音波検査には、沸騰、燃焼、または有毒ガスの発生のない、安定した液状もしくはペースト状を保つように特別に形成されたカプラントが必要です。使用に指定された温度範囲を認識し、その範囲内のみで使用することが重要です。高温用カプラントをその温度範囲外で使用すると音響性能が低くなり、安全上での危険にもつながります。
極めて高温では、特殊な高温専用のカプラントでさえ乾燥や固形化で超音波エネルギーを伝達しなくなる恐れがあるため、迅速に使用する必要があります。乾燥したカプラントの残りは、次の測定までに検査表面および探触子から除去してください。
市販の横波用カプラントは液化し、横波を伝搬するのに必要な高粘度を失うため、通常の垂直入射横波の音響結合は高温では不可能です。
当社では、以下の2種類の高温用カプラントを提供しています。
1. カプラントH-2:温度範囲:-18°C~400°C(0°F~750°F)
2. カプラントI-2:温度範囲:-40°C~675°C(40°F~1,250°F)
自動引火の可能性がわずかにあるため、中温用と高温用のカプラントを換気されていない領域では使用しないでください。詳細は、Evidentまでお問い合わせください。
Evidentが提供するカプラントのリストとそれぞれに関する詳細は、超音波カプラントに関するアプリケーションノートを参照してください。
高温用途の検査手法
あらゆる高温用途における検査手順の確立には、以下の要素を常に考慮に入れる必要があります。
1. デューティサイクル
すべての標準的な高温用探触は、デューティサイクルを考慮して設計されています。遅延材は探触子内部を絶縁しますが、極めて高温の表面に長時間接触すると著しい熱の蓄積を生じ、内部温度が高くなりすぎると結果として探触子が永久的に損傷します。
ほとんどの二振動子型および遅延材付きの探触子では、表面温度が約90°C~425°C(194°F~797°F)の場合に推奨されるデューティサイクルは、高温表面との10秒以下の接触(推奨は5秒)後、最低1分間の空冷です。これはガイドラインにすぎません。接触時間と冷却時間の割合は、所定の探触子の規定温度範囲の上限ではより重大になります
一般的な規則として、探触子の外側のケースが素手で触れるにはあまりに熱くなりすぎている場合は、探触子の内部温度は破損の可能性のある温度に達しており、検査を継続する前に探触子を冷却する必要があります。冷却プロセスを早めるために水冷を採用しているユーザーもいますが、Evidentでは公式には水冷のガイドラインを示しておらず、その妥当性は個々のユーザーの判断に委ねられます。
2. フリーズ機能
当社のEPOCHシリーズ探傷器とすべての厚さ計にはフリーズ機能があり、表示された波形と読み取り値をフリーズすることができます。オペレーターが読み取り値を把握し、高温表面から探触子を素早く取り外すことができるため、フリーズ機能は高温測定では非常に便利です。厚さ計では、高速スクリーン更新モードを使用すると接触時間を最小にできます。
3. カップリング手法
探触子のデューティサイクル要件と、使用可能な厚さ範囲の上限におけるカプラントの固形化または蒸発の傾向を組み合わせると、オペレーター側の迅速な作業が必要となります。最良の方法は、探触子面にカプラントを1滴滴下し、ねじったり擦り合わせたり(探触子が摩耗します)せずに探触子を検査面に強く押しつけることです。乾燥したカプラントの残留物は、測定と測定の間に探触子の先端から除去してください。
4. ゲインの増加
厚さ計39DL PLUSと45MGは、EPOCHシリーズのすべての探傷器と同様に、ユーザーが調整可能なゲインの増加機能が装備されています。高温測定では減衰が大きいため、測定を行う前にゲインを高めると効果的です。
5. 音速の変動
すべての材料内の音速は温度によって変動し、材料の温度が高くなるにつれ低速になります。高温材料の精密な厚さ測定には、音速の再校正が必要になります。鉄鋼の場合、音速は温度の55°C(100°F)の変動ごとに約1%変動します(正確な値は合金によって異なります)。プラスチックやその他のポリマーの場合、この変動ははるかに大きく、融点まで55°C(100°F)の変動ごとに50%に達する可能性があります。材料についての温度 / 音速のプロットが入手できない場合は、実際の検査温度で検査材料のサンプルに対して音速の校正を行う必要があります。厚さ計39DL PLUSでは、温度補正ソフトウェア機能を使用して、プログラムされた温度/音速の定数に基づき、認識されている昇温に合わせて音速を自動的に調整できます。
6. ゼロ点再校正
二振動子型探触子で厚さ測定を実施する際は、遅延材内を伝播する時間の変動が原因で、所定の探触子のゼロ補正値が温度とともに変動することに留意してください。正確性を維持するには、定期的な再ゼロ調整が必要です。Evidentの腐食検査用厚さ計では、機器の自動ゼロ点調整機能で迅速かつ簡単にこの調整を実施できます。セカンドファンクション>ゼロ点実行キーの順に押すだけです。
7. 減衰の増大
あらゆる材料内において、音の減衰は温度とともに大きくなり、その影響は金属や陶器よりもプラスチックにおいてはるかに顕著です。一般的な細粒炭素鋼合金内では、室温における5 MHzでの減衰はビーム路程の片道100 mmにつき約2 dB(片道50 mmの往復経路に相当)です。500°F(932°F)では、減衰は100 mmのビーム路程につき約15 dBに増加します。この影響により、高温で長いビーム路程を検査する際には、厚さ計のゲインを著しく増加させて使用する必要があります。室温で設定した距離振幅特性(DAC)曲線、または時間変動ゲイン(TVG)プログラムに対する調整も必要となります。
ポリマーにおける温度 / 減衰の影響は材料によって大きく異なりますが、一般的に前述の鉄鋼の数値の数倍になります。特に高温の長い遅延材は、検査における全体的な減衰の大きな原因になることがあります。
8. ウエッジにおける角度の変動
どの高温ウエッジでも、ウエッジ材内の音速は温度が上がるにつれて低下するため、金属内の屈折角はウエッジの温度が上がるにつれて大きくなります。所定の検査でこのことが問題になる場合は、実際の運用温度における屈折角を検証する必要があります。実用上の問題として、検査中に温度が変動すると、実際の屈折角を正確に判断することは難しくなります。
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